白い釉薬を使ったクラシックなシルエットが人気のAstier de Villatte。日本でも小林摩耶さん、安田美沙子さん、押切もえさんなどの芸能人をはじめ、料理雑誌の撮影などで使用されるなど、ご存知の方も多いはず。そんなAstier de Villatteのアトリエを見学させてもらい、共同創業者でデザイナーのBenoît Astier de VillatteさんとIvan Pericoliさんの二人にお話を伺いました。
※Ivanはインタビューのラスト10分で登場します
Q.多くの職人が働いていますが、何人くらいで作っているのですか?
Benoît:
現在は20人程度です。一人の職人が一つの陶器を最初から最後まで作っています。すべて手作業で作られ、制作期間は約2週間。そのため、完全に受注生産でストックを持っていません。
基本的には決められた製作方法で作ってもらっていますが、ルールを守ってもらいながらも効率よく作業する方法やよりよいデザインにするなど、職人たちのセンスに任せる部分もあります。
例を挙げると、一番初めの工程で土をピザのように手で叩いて引き延ばし、“biscuit(ビスケットの意味)”という状態にする作業があります。これは私たちの陶器を作る基本的な作業で、美術大学で教授に教わった方法です。この作業を行うことで繊細でありながら丈夫な陶器になります。
しかし、何人かの職人はこの作業を延べ棒を使っています。従来の製法ではありませんが、私たちは彼らのやり方を尊重しています。他の職人も少しづつ自分のやり方を持っていて、それがAstier de Villatteらしい個性を生み出しています。
“biscuit”を作る職人
ビスキュイの状態から成型する。基本的に最初から最後まで同じ職人が担当
ずらりとアトリエに並ぶ型
Q.現在もお2人がデザインをされているのですか?
Benoît:
社内には数人デザイナーがいますが、多くの作品は現在もIvanと私がデザインしています。ですが、私たちはアトリエを友人に解放することも好きなんです。もし、彼らの作る作品を気に入ったら、コラボレーションすることもよくあります。例えばカップにしても誰かがデザインを付け加えたり、形を少し変えたとしても構いません。
Q.アイデアはどこからインスピレーションを得ていますか?
Benoît:
教養から来ると思います。美術大学の教授からはたくさん学びましたし、Ivanのご両親も芸術家の感性を持っていますし私の両親も芸術家。彼らから学んだ歴史や文学などが今の仕事に生きています。インスピレーションの多くはこうした過去の歴史から来ていて、それを現代に生かしています。
例えば私たちのコーヒーカップは昔見たことがあるようなクラシックなフォルムです。しかし、デザインは完全に過去のものではありません。過去を振り返って、このカップを見つけようとしても見つからないでしょう。これは“Re-design”されたもので、私たちが創り出したものだからです。
独特の世界観・風合いをもつ陶器
私の父親は画家ですが、彼は絵を描くときに歴史的な名画をたくさん見ます。父も私もBalthusという画家の作品に影響を受けています。現代の画家ですが、画風がとても中世的なんです。
例えば、若い女性が描かれた絵があります。描かれた要素で30~80年代に描かれたと分かるのですが、全体を通してみると現代的。彼の描き方がとても好きなんです。ですから、私たちのインスピレーションは、教授をはじめこうしたつながりの中から生まれています。
Q.Astier de Villatteの陶器はどれもシンプルなデザインで、華美な装飾は施されていません。しかし、完璧なバランスを保っています。デザインについてはどんなことを考えていますか?
Benoît:
陶器のデザインがシンプルだと、絵を描くときにとても面白いんです。こうしてお皿にりんごでも置いて光が入るだけでも、とてもいい絵のモチーフになります。そうですね、自然光に映えて、どんなテーブルでも、色でも調和して絵になるようなデザインが大切だと考えています。
Saint-Honoréの本店に並ぶ完成品。飾りすぎないシンプルなデザイン
Q.確かに日本では料理雑誌などで、Astier de Villatteのお皿がよく撮影に使われています。
Benoît:
このように使われることは想定していませんでした。確かに写真映えするかもしれませんね。私たちのお皿の上にショコラを置くだけで素敵ですが、他のお皿だとこううまくはいかないかもしれません。写真と絵はまったく同じではありませんが、どちらにも言えることは光が大切ですもんね。
Q.あまり主張しないで、主題を際立たせるのは性格ですか?
Benoît:
あまり主張しないで控えめなのはこれも教養のせいかもしれませんね(笑)。いえ、実際私は人を押し抜けるような態度が好きではないんです。例えば、自分のやっていることはすごい!とずっと自分の自慢話ばかりしているようなことは。
Q.「白」という色はAstier de Villatteにとって、どういう色ですか?
Benoît:
白は偶然できた色なんです。初めての展示では、現在の白い釉薬を使っていなかったので、お客さんから「すごく素敵だけど、どうやって食事と合わせればいいのかわからないよ」と言われたんです。それから食べ物を入れて使うのに適した色を探していて、それが白だったんです。土が黒いため完全な白ではなかったのですが、とても評判が良かったんです。当時は白を使っていた作家はあまりおらず、白い釉薬に見栄え良くするために少し色を加える方法が主流でした。
成型し一度焼いた後に釉薬を塗り再度焼きます
手作りならではの不均衡さと白に映える陰影が美しい
エネルギーのあるとても好きな色です。フォルムは過去のデザインに似ていますが、普通の白だと柔らかすぎてのっぺりした印象になりがちですが、黒い土の上に塗ると存在感が出ます。デザインやモチーフは過去のものから着想を得ていますが、作り方はとてもエネルギッシュ。私たちの陶器は、柔らかさと力強さを合わせたものでしょうね。
ブティックにはキャンドルや文房具、香水なども
Q.陶器以外にもキャンドルや、香水、文房具、出版まで手掛けています。クリエーションはどこまで広がっていくのでしょうか?
Benoît:
限界はとても広いです。まだたくさんのことができると思っています。Saint-HonoréとTournonに2つお店を持っていますが、この2店を私たちは素敵な“箱”だと考えていて、この“箱”に似合う素敵なモノであればどんなものを作ってもいいと考えています。
陶器については美術大学で製法を学んできたので当然として、ギャラリーラファイエットや大きなショッピングセンターなど他のお店では見つからないものを置きたいと考えています。他所から仕入れてお店に置くよりも、自分たちで作ったほうがより個性的で品質の高いものが作れます。セーターや洋服など他のことにも挑戦してみたいです。お店のどこに置くか考えなければいけませんが(笑)。あとは時間を作れるかが問題ですね。
ーーIvan登場。
Q.それでは、お2人がパリで好きな場所を教えてください。
Ivan:
L’Epi d’Orというレストランはよく行きます。お店のある地区が好きなんです。昔ながらのパリといったお店で今そういうお店は減ってしまっているから。マダムがすごくチャーミングです。
Benoît:
そう、まさにパリジェンヌ。まるで彼女の家にいるみたいです。彼女の気に入らないことを言ったら、露骨に嫌な顔をします。彼女は従業員をとても大切にしています。よく訓練されてますし、とてもよく気がついてくれて家族的なサービスをしてくれます。マダムも初めは少し意地悪く思えますが……。
Ivan:
慣れてくると、とっても親切ですよ。意地悪じゃない(笑)。パリらしい雰囲気だし、食事も美味しい。料金もそこまで高くありません。お昼に食べに行けばクリスチャン・ルブタンに会えるかもしれませんよ。ここでよく食事をしています。
Benoît:
予約しなくてもすぐに座れますよ。18世紀から続く本物のパリのレストランです。何を食べても美味しいですが、私のおすすめはキノコのソテーです。
Ivan:
L’Epi d’Orで夕食を食べたら、モンマルトルのRue des MartyrsにあるキャバレーのChez Michouへ行くといいですよ。テレビにもよく出ていてフランス人なら誰でも知っているMichouのお店です。レストランもあります。
Benoît:
そう、いつも青い服を着ていておなじみのジョークで笑わせてくれます。劇場も感じがいいしとても面白いキャバレーです。
Ivan:
私の日本人の友達も気に入っています。Chez Michouは24時に閉まってしまうので、それから他の場所に移動しましょう。例えば、Aux Trois Mailletz。一階にはレストランがありますが、それよりも地下に行ってください。公演は23:00~23:30頃に始まります。週末は予約しないと入れないので、ウイークデーの方がオススメです。地下には15人ほどのミュージシャンがいて、歌ったり叫んだり(笑)。カオスな状況でとっても面白いです。サービスはあまり良くないので期待しないでください。入場料は高くないですが、飲み物は少し高いです。
Benoît:
日本人も歌って踊れてお酒が飲める場所は好きだと思いますが、ここはまさにフランスのカラオケといった場所。全員が好きなように過ごしていてとても面白い場所です。本物のパリを知るにはいいところで、この雰囲気はここでしか味わえません。
Ivan:
3時か4時までLes Trois Mailletzで遊んだら、Caveau de la huchetteもおすすめします。地下にあるジャズクラブですが若者も老人も歌って踊っていて、とても面白いです。雰囲気もとってもいい。
Benoît:
Les HallesにあるAu Pied du Cochonもパリらしいお店です。24時間営業で朝行っても午後に行っても何時でも開いているし。店員も感じがよい本物のパリジャンです。
Q.最後にお2人がパリといって思い浮かべるのはなんでしょう?
Benoît:
僕はセーヌ川沿いの景色です。特にシテ島のノートルダム寺院のあたりから、コンコルド広場までのあたりまでの河岸。いつ歩いても素晴らしい景色で、パリでしか見られない景色です。Ivanは?
Ivan:
河岸のブキニストが言っていたことを思いだします。「パリは図書館が川をまたぐ唯一の街」。ブキニストがセーヌ川の両岸に軒を連ねているでしょう?パリはいつも変革していますよね。近代的な街でありながら、歴史がある。川の流れのように絶え間なく移ろっていくような。 そんなパリにいつも魅力を感じています。
Astier de Villatte
173 rue Saint-Honoré 75001 Paris
Tel. +3301 4260 7413
16, rue de Tournon
75006 Paris
Tel. +01 42 03 43 90
写真・文:金子剛